なぜ新しい技術が必要なのか、既存の技術の革新が必要なのか。ブロックチェーンを生業としているものとして、僕は常にこの命題を抱いています。
僕がシニア・アドバイザーを務めるMoonstakeでは、最近、イスラエルのOrbsとパートナーシップを締結し、今日もOrbsのチームと話をしていましたが、イスラエルは学生時分に中東政治を学び実際に中東のかの地のいくつかの大学・大学院に学んだ身として一つの思い入れのある土地。会話の中で、ふと冒頭の命題について改めて考えていました。
2020年、世界はコロナ禍で大変な影響を受けました。経済的には、世界のGDPが前年比マイナス3.3%とその損失は甚大でした。[1]そして、コロナのパンデミック状況下において、さらに世界規模で深刻な問題として、世界の民主主義と人権が著しく後退したことが挙げられます。国際NGOのFreedom Houseによれば、コロナ禍で世界80か国で、民主主義と人権のクオリティが低下しました。[2] 英エコノミスト誌が2006年から発表している民主主義指数も、10点満点中、過去最低の5.5点をつけています。
今日のOrbsチームとの話には直接は関係なかったのですが、以前、Orbsの共同創設者のNetta Korinがブログで「不正投票を排除するためのブロックチェーン技術」について寄稿しており、この話をふと思い出したことが、この話につながっています。(詳細は、Netta Korinのブログ を参照してください)
民主主義の後退は開発途上国に多いのですが、不正投票はその一つ要因です。開発途上国では、インフラの未整備や国内避難民の問題などから、投票を行う前提となるIDを保有していない場合や、それによるなりすましの投票、他者のIDを使った二重投票など様々な問題があります。ブロックチェーン技術を活用すれば、IDの作成から、盗難の防止、改竄の防止など、様々な観点でこうした問題を解決できます。
国連の推計に従えば、1970年に37億人だった世界人口は2017年には76億人に到達しました。2030年には86億人、2050年に98億人に達すると予測されています。人口予測に基づけば、2050年に向けた人口増の半分は、アメリカを除く先進国以外の9カ国で発生し、うち5カ国はアフリカ(ナイジェリア、コンゴ民主共和国、エチオピア、タンザニア、ウガンダ)で発生すると見込まれています。[3]
開発途上国47カ国の人口増は顕著で、2017年から2050年の間に33%増加し19億人に達すると見込まれており、人口増が最貧困国に集中しているという事実は、国際社会が長年抱えてきた、貧困、飢餓、人権侵害・蹂躙、教育格差、ジェンダー格差、紛争の脅威、テロといった課題に対し、さらなる挑戦を突きつけることになるでしょう。
世界では、最貧国を中心に、11億人を超える人々が身分証明書を保有していない、もしくは証明ができないとされており、このことにより、適切な医療や教育などの基本的サービスが享受できないという事実があります。[4]
国連は2030年までに、持続可能な開発目標(SGDs)に沿って「安全で永続的なデジタルIDの普及」をターゲットとしており、この永続的かつ過去に完全な解決を見なかった課題に対し、異業種・異業態のアライアンスがブロックチェーン技術を用いて取り組んでいます。[5]
なぜ技術革新が必要なのか。それは、過去に解決できなかった課題を解決するためです。そのために、ブロックチェーンができることは山ほどあります。それ故に、我々は技術の進化をやめないのです。
[1] https://www.imf.org/external/datamapper/NGDP_RPCH@WEO/OEMDC/ADVEC/WEOWORLD
[2] https://www.rcinet.ca/en/2020/01/27/2020-world-democracy-index-worrisome-decline/
[3] United Nations DESA/POPULATION DIVITION, World Population Prospects 2017, https://esa.un.org/unpd/wpp/
[5] ID2020, https://id2020.org/